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東京地方裁判所 昭和51年(特わ)1649号 判決 1980年2月29日

主文

被告会社株式会社H商店を罰金三、〇〇〇万円に

被告人Yを懲役一〇月に

それぞれ処する。

被告人Yに対し、この裁判確定の日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、東京都港区に本店を置き化粧品・雑貨等の輸出入業等を営業目的とする資本金四、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人Yは、被告会社の取締役経理部長として同会社の経理全般を統轄し決算書及び法人税確定申告書の作成に従事しているものであるが、被告人Yは、被告会杜の業務に関し、法人税を免れようと企て、期末たな卸高を圧縮し架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和四七年六月一日から同四八年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一九四、七八二、三一五円あつたのにかかわらず、同四八年七月三一日、所轄税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五四、九〇三、四九一円でこれに対する法人税額が一九、九一四、三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右被告会社の右事業年度の正規の法人税額七一、三一九、八〇〇円と右申告税額との差額五一、四〇五、五〇〇円を免れ

第二  昭和四八年六月一日から同四九年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二四二、二三七、〇八八円あつたのにかかわらず、同四九年七月三一日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六九、七九二、六五〇円でこれに対する法人税額が二七、五五六、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右被告会社の右事業年度の正規の法人税額九六、一七四、八〇〇円と右申告税額との差額六八、六一八、〇〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)<省略>

(争点)

弁護人は、本件逋脱所得として公訴提起された金額の内容である勘定科目のうち、支払利息割引料の犯則益金算入、退職給与引当金繰入損金算入、交際費損金不算入額(昭和四九年事業年度分)、雑費益金算入分(昭和四八年事業年度分)、諸税公課益金算入(昭和四八年)、前期棚卸商品今期認容分益金算入(昭和四八年)、売掛金否認今期認容分益金算入(昭和四八年)、買掛金否認今期認容分益金算入(昭和四八年)、輸出部の昭和四九年度期末たな卸高除外、青色申告益(海外市場開拓準備金繰入益、価格変動準備金繰入益、同繰入損、同積立超過額)等の各勘定科目について、これらはいずれも被告人Yにおいて逋脱の目的を有した偽計その他の工作によつてなされたものではなく、犯意はないとし、又は当該科目につき金額を争つているので、当裁判所は次のとおり判断を示すこととする。

(判断)

一そもそも租税逋脱犯は故意犯であるから、犯罪として成立するためには、故意、すなわち法人税逋脱の認識が必要である。それは一般に、偽りその他不正の行為により真実の所得額より少ない所得金額を申告していることの概括的な認識さえあれば足り、逋脱税額が正確にいくらであるか、その細部あるいは具体的金額についてまでは認識を必要としないと解されているが、それは特に租税逋脱犯においては、行為者が多数の取引によつて生ずる収益や損金をすべて、いちいち正確に把握していることは実際上殆んど不可能であるということに由来するからであり、従つて、概括的な認識があれば、所得算定に必要な各勘定科目につき、いちいち個別的な犯意を論ずる必要はないとされているのである。

しかしながら、租税逋脱犯はもとより故意犯であるから、その成立には、常に納税義務の存在することの認識が前提となる。

すなわち、租税逋脱犯の構成要件は、偽りその他不正の行為により、納税義務を免れることであるから、右逋脱犯の構成要件を組成する客観的事実の認識が成立するためには、納税義務、すなわち、その内容をなす所得の存在についての認識が必要であり、更に、加えて偽りその他不正の行為に該当する事実の認識、及び、逋脱結果の発生の認識が必要なのである。

しかして、法人税逋脱税額算定の前提となるべき所得そのものが、そもそも経済的な概念として可分的な数額であり、それを構成する益金、損金も、もともと個々の取引によつて組成されている以上、個々の収益、損金勘定のうち、行為者に右所得の存在することについての認識を欠き、右逋脱の犯意の認められない場合があれば、たとえ、行為者において、概括的な虚偽過少の申告をなしていることの認識があつたとしても、その部分に限つては逋脱の犯意を欠き、従つて、逋脱所得より控除すべきこととなる。

すなわち、それは故意に基づく所得の隠蔽工作とはかかわりなく、故意によらず、あるいは不注意や思い違い等による収益の過少記載、又は損金の過大記載に基づく過少申告によつて、客観的には税を免れる結果を生じても、それは「偽りその他不正の行為」により免れた税額には含まれないものと解すべきである。

租税逋脱犯の故意としての概括的認識とは、右の如き内容をいうに過ぎないのであつて、犯意の認められない部分については、逋脱所得(その算出税額)の算定にあたり、これを除外して計算すべきであるから、決して各勘定科目の個々の認識の検討を全く不要ならしめるものではない。

従つて、概括的な認識さえあれば、個々の勘定科目の認識は一切不要で、個々の勘定科目ごとに故意の有無を論ずることはその前提において誤りであるとする検察官の所論は採用できないといわねばならない。

二租税逋脱犯の構成要件該当行為としての「偽りその他不正の行為」には、たとえば期末たな卸高を圧縮したり、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿する行為をともなつて虚偽過少申告をする行為や、右の如き秘匿行為をともなわない単に虚偽過少申告行為のみが逋脱行為となる態様がある。

右のうち、所得秘匿行為をともなわない場合には、逋脱の意思をもつて、所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出することを要する(最高裁判所昭和四八年三月二〇日第三小法廷判決、刑集二七巻二号一三八頁参照)。

それは、当該申告によつて税を逋脱せしめることの積極的な意思の存在を必要とし、さらに行為者において、あえて右申告に及ぶ行為であることを要する。

従つて、それは未必の故意があるだけでは足りないと解しなければならない。

これに対して、所得秘匿行為をともなう虚偽過少申告については、申告した所得(その算出税額)が過少であることについての認識は、前述した場合のそれとは異なつて、未必的であつても足りると解すべきである。ただ、右の逋脱の夫必の故意が認められるためには、その所得秘匿行為との間に関連性を要するものというべきである。

けだし、所得秘匿行為と関連性を有する限り、行為者において納税義務違反の事実の発生を認容していることが外形的に推断できるからである。

三これを本件についてみるに、被告人Yは、被告会社の資金繰りの手当が充分でなかつたことから税を逋脱せんと企て、納税可能な所得を算出し、これに合わせるため、期末たな卸高を圧縮し、架空仕入を計上して所得の一部につき秘匿行為をしたうえ、虚偽過少の申告をしたことが認められる。

従つて、本件は所得秘匿行為をともなう虚偽過少申告逋脱犯であるから、そこで以下弁護人において争う各勘定科目について検討してみよう。

(雑費、諸税公課、支払利息割引料)

弁護人は、昭和四八年五月期の雑費勘定中、交通違反罰金につき四〇〇〇円を、諸税公課中、加算税につき昭和四八年五月期一五万一四〇〇円、同四九年五月期三万六三〇〇円を、被告会社経理担当社員が仕訳して経費明細帳に記載し集計したもの、支払利息割引料中、延滞税、延滞金につき同四八年五月期一二万七〇〇〇円、同四九年五月期二八万八九〇〇円を、経理担当者が銀行の延滞利息と同様に考えて元帳に記載したものであり、被告人はいずれも右集計された数額をそのまま決算に使用したものであつて、いちいち細かく目をとおさなかつたため単純に看過したものであり、そこには逋脱目的による偽りの不正の工作はない旨主張する。

そこで検討するに、雑費調査書によれば、被告会社の昭和四八年五月期において、従業員が荷物積みおろし中駐車違反を犯したことによる交通反則金四〇〇〇円を被告会社において支払つたことが認められ、諸税公課調査書によれば、被告会社の昭和四八年五月期において、物品税の無申告加算税合計一五万一四〇〇円を、昭和四九年五月期において法人税過少申告加算税二万七四〇〇円、及び都民税過少申告加算税八九〇〇円の合計三万六三〇〇円を各支払つたことが認められ、支払利息割引料調査書によれば、被告会社の昭和四八年五月期において物品税無申告決定分に対する延滞税一二万四八〇〇円、及び固定資産税の納付遅延に対する延滞金二二〇〇円の合計一二万七〇〇〇円を支払つたこと、昭和四九年五月期において法人税更正分に対する延滞税六万七四〇〇円、及び固定資産税、都民税、事業税の本税又は更正分に対する延滞金二二万一五〇〇円の合計二八万八九〇〇円を支払つたことが各認められる。

経費明細帳、元帳、精算表、会計伝票、被告人の当公判廷における供述によれば、右各金額が、いずれも被告会社の損金である営業費勘定に計上されていることにつき、被告人が決裁してこれらを知悉していたことは明らかであり、更に、右の事実に、被告人において確定申告書別表四で加算減算する場合には自らそれを決めていたこと、しかして「罰金」については損金とはならないので営業費を自己否認し加算しなければならないことは知つていたこと、支払利息割引料中の「延滞税等」についても税金の納付が遅れたことによる罰則的な意味があると考えていたこと、「加算税」についても「加」の字のつくものは損金とならないことは知つていた旨当公判廷において供述していることを併せみれば、被告人において右各金額にかかる営業費が税法上の損金とはならないことを認識していながら、これらを自己否認せず、そのまま確定申告書を提出したものであつて、それにより被告会社の所得が圧縮され、法人税の負担が軽減されることになることの逋脱の犯意を認めることができる。

従つて、この点の弁護人の所論は失当たるを免れない。

(退職給与引当金繰入損金算入)

弁護人は、被告会社の公表退職給与引当金に、その対象とならない使用人兼務役員たる取締役が含まれていたところから、昭和四八年五月期につき七九万六二八六円を、昭和四九年五月期につき二〇一万九七〇九円を各繰入損金算入を否認されたことにつき、被告人において右取締役が適用とならないことは知らなかつた旨主張する。

退職給与引当金に関する査察官調書、各期確定申告書によれば、使用人兼務役員分が退職給与引当金の対象とされ計上されていたことが認められ、これに対し被告人は、右使用人兼務役員が適用されないことは知らなかつた旨弁解する。

しかしながら、被告人は査察官に対し、同査察官から「退職給与引当金の繰入れ対象として役員が入つています、これについて述べて下さい」との問に対し答「当時役員であつた次の者は当然税法上退職給与引当金繰入れの対象外ですが、給与関係はMにやつてもらつたもので私も目を通す間がなく申告してしまいました……」と述べており、これと、被告人の当公判廷における供述によれば、確定申告の時に退職給与引当金の繰入額計算表が添付され、その中に取締役の分が含まれていることは判つていたかとの問に対し「知つていました」と供述していることや、被告人は、税法上定められている引当金でなければ控除されないということはわかつている旨供述していること、被告人は、かつて会計事務所に勤務したことがあり、長年被告会社の経理関係の責任者として税務経理を担当していたものである旨供述していること等を併せみれば被告人において、使用人兼務役員が退職給与引当金勘定に計上されており、右引当金には使用人兼務役員は、その対象とならず、従つて損金とならないことを知つていながら、そのまま自己否認せずに確定申告書を提出したものと認められるので、この点に関する弁護人の所論も失当たるを免れない。

(前期たな卸商品今期認容)

弁護人は被告会社の昭和四八年五月期につき前期たな卸商品今期認容として益金加算した一八八万六一八〇円につき、犯意はなく、偽りその他不正の工作は介在しない旨主張する。

前期棚卸商品今期認容調査書、確定申告書、被告人の当公判廷の供述によれば、被告会社の昭和四八年五月期確定申告においては、前期たな卸商品今期認容として別表4に一八八万六一八〇円を減算しており、それは、前期の昭和四七年五月期にたな卸計上もれということで同金額が更正処分を受けたことによる翌期の受入れとして減算し申告した事実を認めることができる。

ところで昭和四八年五月期の期首たな卸高については、被告人作成の申述書、被告人の当公判廷の供述によれば、実地たな卸をして実際額を確定したことが認められるから、従つて、前期たな卸商品今期認容として損金処理された金額は、その実際額の中に含まれていることは明らかである、そのため、この損金処理の金額は控除し、従つて益金に加算しなければならないことになる。

ところで右は、本件の所得秘匿行為がたな卸高の圧縮であるので、その関連において考えれば、昭和四八年五月期確定申告に際し右金額を計算上減算しても、同事業年度期首たな卸高そのものが、正確な実際額ではないことは被告人において了知している以上は、将来、正確な実際たな卸高を調査されて把握されれば、右は否認されるであろうことは、一般にも充分予見しうるところであるから、右の点につき被告人に未必の故意を推認することができるといわなければならない。従つて、弁護人の所論は失当である。

(売掛金否認今期認容・買掛金否認今期認容)

検察官は被告会社の昭和四八年五月期において売掛金否認今期認容として七九万五四三四円、買掛金否認今期認容として三六万一五五六円を各減算し申告したことにつき、前者は売掛金の受取超過の関係で否認を、後者は買掛金の長期無請求の関係で否認をいずれも行つて各雑収入として処理すべきであつたのであるから当期においてこれを修正した旨主張するところ、これにつき弁護人は、右更正処分により雑収入として経理すべきものとされたのであつて、そこには犯意はなく、偽りその他不正の行為は存しない旨主張する。

確定申告書、税務関係書類、被告人の質問てん末書、被告人の当公判廷における供述によれば、前期の昭和四七年五月期における売掛金の過大入金分の未処理や、買掛金の長期間相手方から支払請求のないことによる未処理につき、雑収入として処理すべきであるとして雑収入計上もれ一一五万六九九〇円として前期につき更正処分を受けたことが明らかであり、そのため、翌期である昭和四八年五月期において、雑収入勘定科目に同額を計上したことが窺われ、そこで、売掛金否認今期認容、買掛金否認今期認容として確定申告書添付別表4に減算計上し申告したことが認められる。

そうすると、右各項目はいずれも前期たる昭和四七年五月期における更正処分にともなう税務調整上の加算金にすぎず、逋脱の犯意の存することを推認する確証もないから逋脱所得として刑事罰の対象とすることは許されない。

ところで検察官は、本件において、一方に売掛金否認今期認容、買掛金否認今期認容につき加算し、他方、雑収入勘定につき△一一五万六九九〇円として右と同額を減算しているが、右加算、減算の両勘定科目は、税務調整上の必要から両建処理をしているものと認められるので所得そのものの変動はないから、右両建にかかる各加算、減算金額を除去することとしたが、右は実際所得金額(行為者の認識した正当な所得金額)の算定に影響はない。

(青色申告取消益)

弁護人は、青色申告の承認取消されること自体には何等偽りその他不正の工作がないから、右取消の結果生ずる差額税につき逋脱犯は成立しない旨主張する。

被告会社の確定申告書、青色申告承認取消証明書、海外市場開拓準備金繰入益調査書によれば、被告会社は青色申告書提出承認を取消され、それに伴う増減額につき、海外市場開拓準備金繰入益として、昭和四八年五月期につき三〇二万円、昭和四九年五月期につき三九八万円、価格変動準備金繰入損として、昭和四八年五月期につき三七〇万円、昭和四九年五月期につき二九〇万円、価格変動準備金繰入益として、昭和四九年五月期につき△三七〇万円、価格変動準備金の積立超過額として昭和四八年五月期につき△八七万八六六五円となることが認められるところ、被告人の当公判廷における供述によれば、被告人は仮空仕入等の不正行為が発覚すれば、青色申告書提出の承認がさかのぼつて取消されることを知つていたことが認められる。

所得を過少申告する逋脱行為は青色申告承認の制度と根本的に相容れないものであり、逋脱といつた不正行為をすれば、それを原因として青色申告の承認が取消され、各種準備金繰入額の損金計上等の特典が受けられなくなることは行為者に当然認識できることである(最高裁判所昭和四九年九月二〇日判決刑集二八巻六号二九一頁参照)から弁護人の所論は失当であるといわなければならない。

(輸出部たな卸高)

検察官は、被告会社の輸出部たな卸高につき、昭和四九年五月期の期末たな卸高は六一一万六〇〇〇円である旨主張するところ、弁護人は、右のうち、在庫残高表には形式上は同金額が記載されてはいるが、プラグ計一万個一二〇万円、カセットレコーダー他二〇〇〇個二九万円は実際には在庫として存在しなかつたから一四九万円を控除すべきである旨主張する。

在庫残高表によれば、昭和四九年五月三一日現在において、カセットテープレコーダー他、数量二〇〇〇個、プラグ数量につき五〇〇〇個、二五〇〇個、二五〇〇個、金額につき六〇万円、三〇万円、三〇万円の記載を含めて合計六一一万六〇〇〇円と記載されており、検察官の主張する金額は一応認めることができる。

これにつき被告人は当公判廷において、輸出部は昭和五〇年二月頃閉鎖したが、その際、始めて在庫たな卸調査をして、右プラグ、カセットレコーダー等が存在しないことが判明したと供述するとともに、昭和四九年五月期の確定申告に際しては、公表の在庫残高表に記載されているのをそのまま申告したためであると供述している。

被告人の各質問てん末書、Fの質問てん末書によれば、電気製品等はメーカーから直接に倉庫に納入保管させ、経理部において帳簿で現物の出納を管理しており、実地たな卸はしなかつた事実が認められる。

右によれば、被告会社は輸出部のたな卸高につき、実地たな卸をせず、単に在庫残高表の記載のみで計上していたものと認められる。従つて、本件は、在庫残高表の記載が信用できるか否かにかかるといえる。

そこで右在庫残高表の記載を検討するに、その二枚目の品名欄のうち、争いのあるプラグの欄外部分三個所に×印の記入があり、これにつき被告人は当公判廷において、それは昭和四九年一〇月二五日に新しく用紙を切替えるときに在庫として存在しないということで×印を付したのではないかとおもうと供述している。

しかしながら、カセットテープレコーダー他には右の意味の×印は付記してなく、在庫残高表一枚目の昭和四九年一二月二三日欄には、右のプラグは削除されているが、カセットテープレコーダーは依然として記載されている。被告人はこの他の×印の付していない在庫品につき、若し在庫を確認したとき当該在庫品が存在していなかつたならば、一緒に×印を付しているということは言えると思う旨当公判廷で供述している。

在庫残高表を記載し管理していたFは、輸出部については、取扱品目も少ないので品目別管理可能なため、帳簿上の在庫高を計算し実地たな卸は省略していた旨述べている。

また、被告人は、当公判廷において当初はバッテリークロック、マジックアンテナ、パワーコードの三品目(金額合計二二三万八〇〇〇円)が存在していただけであつた旨供述しながら、その後、その他のアダプター(六四万円)、プラムバブ他(一六〇万八〇〇〇円)、カースピーカー(一四万円)の品物についても存在したと供述し、右供述が変更され轉々としている。

ところで、プラグはその単価が一二〇円という低廉であるところから、テレビその他の付属品であるので、テレビ等が売却されれば、それに応じて共に販売されると考えるのが普通であるとおもわれるが、この点について被告人は当公判廷において、営業の方で、伝票にテレビ他などと記載したため、在庫残高表の上ではプラグが残つてしまつたのではないかと供述している。

右の各事実を総合すれば、本件は、結局、輸出部の昭和四九年五月末のたな卸高のうち、プラグ数量計一万個、金額計一二〇万円の存在については疑わしいといわざるを得ない。

たな卸メモには、輸出部たな卸高として、在庫残高表の内訳、金額がそのまま記載されているが、被告人の当公判廷の供述によれば、それは、右在庫残高表をそのまま轉記したに過ぎないと認められるので、右記載は信用しない。

以上のとおりであるから、被告会社の昭和四九年五月期の輸出部在庫のうち、プラグ関係分一二〇万円については、期末たな卸高から控除することとした。

(交際費損金不算入額)

一検察官は、被告会社が昭和四九年五月期において取引先に対し行なつたゴルフトーナメントにかかる宣伝費、交通費合計六五三万三三七三円は交際費に該当するとして損金不算入額を算出し、右は逋脱所得を構成する旨主張する。

元帳、経費明細帳、諸経費綴、ゴルフ関係書類、被告人の昭和五一年四月六日付質問てん末書によれば、被告会社において昭和四八年九月一二日ゴルフトーナメントを実施し、その費用として宣伝費項目に参加賞代一万〇八〇〇円、賞品代二万八五〇〇円、同二一万四二〇〇円、同七万六七五〇円、始球式ボール八〇〇円、大会運営費用四九七万円、同四六万二九八三円を計上し、交通費項目にVゴルフ社関係者渡航費用七六万九三四〇円を計上し合計六五三万三三七三円を費用として全額損金に計上したことが認められる。

これにつき弁護人は、右ゴルフトーナメントが被告会社においてアメリカのPゴルフ総販売代理店であつたところから、ゴルフ道具取扱業者である取引先に右Pゴルフクラブを宣伝するためにゴルフトーナメントを実施したものであつて宣伝費として支出したものであるから交際費ではない、仮に交際費に該当するとしても、それは解釈の相違によるものであつて、被告会社において広告宣伝費の科目に事実をそのまま記載していたものであるから、そこには逋脱の目的や偽りその他の工作は存しない旨主張する。

そこで右ゴルフトーナメントに係る費用が税法上の交際費等(租税特別措置法六三条四項)に該当するか否かを検討することとする。

二前掲各証拠及び被告人の検察官調書、被告人の当公判廷の供述によれば次の事実が認められる。

被告会社は、アメリカのPゴルフ道具の総販売代理店として輸入一部がその業務を担当していたが、右Pゴルフを、わが国内に普及させる目的で、アメリカよりメーカーの技術者を招聘したうえ、取引先を招待し右ゴルフクラブの技術性を説明させ、併せて親睦のためのゴルフトーナメントを実施し賞品等を贈呈することを企画し、株式会社Oとの間にP親睦ゴルフ大会実施方を委任する契約を締結した。

そこで被告会社は、取引先であるゴルフ道具取扱大口小売業者一〇〇名(一部将来の勧誘先を含む)を選定して案内状を送り、ゴルフ雑誌記者をも併せ招待し、米国からメーカー技術者を渡航させたうえ、昭和四八年九月一二日、Hホテルに会場を設けた。当日第一日目は、同会場においてPゴルフクラブの技術性について説明し質疑応答をした。

同夜は同ホテルに取引元八〇名程を宿泊させ酒肴を供し芸妓をはべらせ宴会等を行なつた。

翌二日目は、「親睦Pゴルフトーナメント大会」を実施し、参加者は支給されたPマーク入りの帽子を着用し競技した後、参加費及び賞品を受領した。右に要したホテル宿泊費関係(レセプションを含む)、ゴルフ場料金、交通通信費、印刷費、賞品代を宣伝費として被告会社において支出し、アメリカより技師を招聘した渡航費用を交通費として支出したことが認められる。

三惟うに、交際費等と広告宣伝費との区別は、(イ)支出の目的が交際目的(親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ること)か広告宣伝目的(購買意欲の刺激)か、(ロ)支出先が特定か不特定かによつて区別すべきものと解すべきところ、本件中、宣伝費項目に計上した分五七六万四〇三三円については、右ゴルフ大会が主として取引先との親睦を図る目的で実施されたものであると認められること、招待先は特定された取引先に限られ、一般消費者たる顧客に対する具体的な宣伝を依頼した事実が認められないので、右は交際費等と認めるのが相当である。

なお、交際目的といい、宣伝目的といつても、本来両者相排斥するものではなく、交際目的のなかに宣伝費的要素の複合して存在することは充分あり得ることであるから、従つて、その場合には、行為の外形から主たる目的を推断するのが相当であるところ、本件はその行為の態様をみるに、主として親睦の度を密にし取引の円滑な進行を図るために行なわれたと認めるのが相当である。

四これに対し、交通費項目に計上した七六万九三四〇円については、Vゴルフ関係技術者たる外国人二名を招聘したアメリカからの渡航費用等であるところ、右はPゴルフクラブを普及させる目的という専ら宣伝的効果を意図して直接に支出した費用であるから、当該部分の金額に限つては被告会社の損金と認めるのが相当である。従つて、右金額については交際費勘定から控除することとした。

五なお弁護人は被告人において宣伝費としての認識を有していたのであるから犯意がないと主張するが、しかしながら、被告人は昭和四七年五月期においても損金計上した宣伝費の一部を自己否認して交際費等と認めて申告している事実(経費明細帳(昭和四七年五月期)、昭和四七年五月期確定申告書)があり、長年税務経理を担当し、広告宣伝費と交際費等との区別も了知しており、また、本件ゴルフトーナメントが主に「親睦」を目的として行なわれたものであることは、Pグループ関係書類中の「恒例の親睦とゴルフの集い」と明記した案内状の記載や、「P親睦ゴルフ大会」の実施である旨を第一条の目的とした被告会社と株式会社「O」との間の取定めた「覚書」等の存在することからも認め得るし、これらの事実を併せみれば、右の親睦の目的を以つて特定の取引先との間にゴルフトーナメントを行なうとの認識があれば交際費等の認識を有していると認めるに充分である。たとえ、宣伝目的が含まれているとしても、叙上説示したように、交際費等の概念には宣伝の要素をも包含していることから何ら差支えない。従つて、本件は宣伝費として金額損金計上し確定申告することによつて交際費の限度計算による損金不算入を免れ被告会社の所得が圧縮され租税負担が軽減されることとなる逋脱の犯意を認めることができる。よつて弁護人の所論は採用しない。

(本件逋脱所得と重加算税との関係)

弁護人は本件各事業年度における重加算税の対象となつた勘定科目は「たな卸計上漏」と「仕入中否認分」のみで、他は重加算税の対象となつていないから、他の科目をも逋脱所得の算定に加えるのは不当である旨主張し、被告人の当公判廷における供述によれば、右主張にそう弁解をする。しかしながら、刑事判決と課税処分とは、両者別個の法体系に属するので、刑事判決において行政上の納税義務と異なる判断をしても差支えなく、納税義務違反の発生を防止し、もつて納税の実を挙げんとする趣旨に出た行政上の措置である重加算税と、納税者の不正行為性ないし反道徳性に着目し、これに対する制裁として科される刑事罰とは、その性質を異にする。犯罪として刑罰を科するための要件と、課税をするための要件とが同一である必要はない。よつて、弁護人の所論は、その立論の前提において失当たるを免れない。

(逋脱所得の計算)

一以上により、昭和四八年五月期については、売掛金否認今期認容分七九万五四三四円、買掛金否認今期認容分三六万一五五六円を控除するが、他方、雑収入についても、右と同額の合計金額一一五万六九九〇円を控除することとなるので、差引、逋脱所得(その算出税額)に影響はない。

二昭和四九年五月期については、逋脱所得とされた金額のうち、輸出部たな卸高にかかる一二〇万円、及び交際費損金不算入額中、交通費七六万九三四〇円に相当する不算入額を控除することとした。

(法令の適用)

一、被告会社につき

いずれも法人税法一五九条一項、二項、一六四条一項。刑法四五条前段、四八条二項。

一、被告人につき

いずれも法人税法一五九条一項(いずれも懲役刑選択)。刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第二の罪の刑に加重)。刑法二五条一項。

よつて主文のとおり判決する。

(松澤智)

別紙(一)〜(四)<省略>

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